Re Another Life

アニメや音楽に始まり哲学など

Randonautica(ランドノーティカ)のホラーな効能について

f:id:AnnieAreYou:20200822204549j:plain

Randonauticaとは

 今海外で「Randonautica(ランドノーティカ)」というアプリが話題になっている。このアプリは現在地から徒歩でだいたい一時間以内で行ける場所をランダムで指定してくる。ユーザーは指定された場所に出かけ探索することを促される、つまりは「お散歩アプリ」だ。「日常を離れて冒険する」というのをコンセプトに開発されているようだ。

 

さて、このお散歩アプリがなぜ、これほどまでに話題になっているのか?この爆発的な流行には2つの原因が考えられる。一つはこのアプリを用いたティーンエージャーが指定された場所で死体の入ったスーツケースを発見し、その様子をTik Tokに投稿したことが挙げられる。この出来事によってランドノーティカの名前がその不穏な危険性とともに世界に知られるようになった。

 

もう一つは「引き寄せの法則」を想起させるようなアプリの意味深な仕様だ。現在地を送信したのち、アプリは「異常地点」や「アトラクター」という耳慣れない選択肢を迫り、どのような場所に行きたいか心の中で思い浮かべるようユーザーに促す。

 

以上「事件による疑念」と「意味深な仕様」という二つの要素が合わさったことによって「ランドノーティカ」は「どこか不気味なアプリ」としての人気を確立していった。

 

この記事では、そんなランドノーティカのオカルト話を披露するのではなく、私がこのアプリを実際に使ってみて、どのような効能があったのかということを書いていきたい。効能というと「高価なツボ」のような怪しいにおいがしてしまうが、私が言いたいのは、そういった超自然的なものではない。もったいぶらずに言うとランドノーティカを使うことで「ホラーの文脈」というものを作り出すことが出来る、というのがこの記事で言いたいことだ。

 

 ホラーに対するスタンス

 その前に私のホラーに対するスタンスを明らかにしておきたい。オカルトを信じている人間とはどうしても思われたくないからだ。確かに私はホラーな映画やゲーム、小説を好んで鑑賞する人間だが、そういった超自然的なものが現実に存在するのか?という問いに対しては、現実的でないと答えざるをえない。

 

「霊感」などというなぜか日常会話で受け入れられがちな概念も「B型の人間の性格は~」という言説と同じくらいあり得ないと考えている。他の記事を見てもらえれば分かるが普段は哲学という論理的な思考が必要とされる学問を営んでいることも、そういった超自然的なものへの拒否反応につながっているのだと思う。以上疑われたくないが故の弁解です。

 

普段の散歩をホラーに

さて、やっと本題だが端的に言えばランドノーティカの効能とは「現実をホラーな文脈の上に作り出すこと」に尽きる。死体入りスーツケースの場所を指し示し、その後もユーザーを不気味な場所に次々と送り出す「呪いのアプリ」を使った散歩は普通の散歩とは全く違った様相を呈する。

 

前方に落ちている黒い手袋はカラスの死体に見えてくるし、民家の人影はこっちを見ているような気がする。指定された場所の近くにお寺や教会があれば偶然であっても心がザワザワしてくる。たとえ何も発見できず、何も起こらなかったとしてもすべてが不吉なものに見えてくる。そして幸運にも(不幸にも)何かが起こればそれはランドノーティカのせいになる。

 

これらの効果は全てアプリを用いたユーザーの主観の中で起こるので、一概にアプリの功績というのは違うだろう。例えばホラーの造詣が深い人と浅い人では前者の方が、この効果を感じやすいだろう。しかし、こういった個人差を除いてもランドノーティカはアプリ自体が持つ不吉な文脈(実績)によって「日常をホラー化する」という役割を果たす。

 

結論

なんだか一言で済みそうな内容を長々と語ってしまったが、これはランドノーティカのような「不吉な好奇心を煽るもの」に対する冷めた視点の一つとして受け取ってほしい。ランドノーティカとは「なんだか不吉なアプリ」なのではなく「使用者に不吉を予感させることで、散歩の見え方を変えるアプリ」であるというのが、この記事で言いたかったことだ。

 

ホラーを信じている人間にとっては冷や水を浴びせられるような考え方だろうが、こういったオカルトを現象として捉えることで見えてくる事もある。それはオカルトとはまた別ベクトルで面白いことだと思う。安心してお散歩アプリとして使ってもらいたいと思う。

 

蛇足

アプリの不吉な文脈(実績)がトリガーとはいえ、散歩を不穏なものにするのはやはり人間の想像力である。この想像力とはホラーに欠かせない要素、恐怖の源と言える。

 

人が暗闇を怯えるのは暗闇それ自体が怖いのではなく、暗闇の中に存在する恐怖を勝手に作り出して怖がっているのである。

 

ランドノーティカはそんな人間の想像力を刺激するという点で非常に面白いアプリであるし、人間に物語を自動的に作ることを促すクリエイティブな面をも持つ。

 

「日常を離れて冒険する」という触れ込みは割と正確にこのアプリの性格を表している