いま世界の哲学者が考えていること 感想
偉大な哲学者が探求した思想を追うのも良いですが、その上に積み重ねられて成り立っている現代の哲学はさらに凄いんだろうな、知りたいなと思い、読み始めました。
しかしこの本のテーマは「今を生きる時代を分析し先の世界を創造する」という、いわば真理の探究を放っておく態度の上にあります。「資本主義」や「BT・IT革命」など最先端の技術や仕組みをテーマに置き、それらに対する現代の哲学者の考えを紹介する本となっています。
「もはや真理などニーチェによって殺されている」と言わんばかりの展開に涙です。斬新で興味深い意見が多い一方でまだ発展途上な考え方も少なくありません。しかし「最先端の思想が知れる」という点で非常に面白いです。
1,~的転回について
初めに「転回」という概念の話になるんですが、これは簡単に言ってしまえば「過去の時代が決定的に変わった要因」あるいは「これからの時代の変化を決定する要因」という事ができます。
具体的には17世紀のデカルトの合理論やロック、ヒュームなどのイギリス経験論そしてカントに代表される「認識論的転回」(コペルニクス的転回)
20世紀の言語が認識において重要な役割を果たし現実を構築する、という「言語論的転回」等があげられます。
一見しただけでは「哲学の世界にしか関係ないことじゃん」と思われますが上記のように(すくなくとも現代の)哲学は「今を生きる時代を分析し先の世界を創造する」という非常に包括的な目的を持っています。
あくまで私たちの根本を問いているという事で私たちの生活に無関係という事はないといえないでしょうか(実例を挙げられないのが実に悔しい)
2,じゃあフィルターはいいんスか?
この本で挙げられる新たな時代の転回は「自然主義的転回」「メディア・技術論的転回」「実在論的転回」の3つ。このいずれかの立場から現代の問題が扱われていきます。
個人的に面白いのがメディア・技術論的転回です。先に挙げた「言語論的転回」に対して
「言語が世界を構築するとか言ってるけど文字の場合は紙やペン、そしてインク。会話の場合は音を発する口やそれを受け取る耳、そして音を伝える空気なんていう物質的なフィルターがかかってるんじゃん?
そんなフィルター越しの認識でいいんスか?」
と、いわば媒体を問題としたポスト言語論的転回的な転回を展開しています。JK張りに「的」を使わざるを得ない状況にJKの論理的思考能力の高さを思い知らされています。
「言語論的転回」が主張する「異なる言語ゲームは共約不可能である(言語が異なれば現実も違ってくる)」という相対主義に「待った!」をかけられるのではないか、と個人的には勝手に期待しちゃったりしてます。
お堅い話になってしまった感じはありますが「僕らが騒いでるクローン人間ってのは実は年齢の違う一卵性双生児なんだよ!!」とか「シンギュラリティによって生み出されるAIにも不完全な個所があるんだよ!!」など単純に最新の技術に関する知識など、ちりばめられてあって楽しめます。
そもそも哲学というのは「お前の考えは違うぜオラア!(ボゴオ)」と表現しても(あながち)間違いではない、いわば知の格闘技と言えます。ですので反論不可能と思われた思想に対して殴りかかっていく新参者の姿を見るのは難しい理屈抜きで見ても十分面白いものだと思います。
タイトルはお堅いですが決して難解な文章ではありませんし「知識のついでに考え方も!」というカジュアルな動機にも十分マッチする本としてお勧めしたいと思います。