Re Another Life

アニメや音楽に始まり哲学など

映画「エンジェル ウォーズ」ベイビードールは生きている

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映画「エンジェル ウォーズ(原題:Sucker Punch)」を見ました。※ネタバレ注意
感想の前に一つ小話を。


邦題が原題から離れすぎている問題

というのは近年何かと取り沙汰されていますねしかし正直、商業的(売り上げ的)な観点から見ると邦題の方が圧倒的に優れているんですよね。今作の場合でもそれは当てはまっています。


まず原題は「Sucker Punch(不意打ち)」といかにも怪しい割には内容を想像し難いものです。しかし邦題「エンジェル ウォーズ」はどうでしょう。可愛い女の子達を(一応)劇中の言葉になぞってエンジェル(天使)と表現しました。可憐な女の子の素晴らしいアクションが前面に押されている今作にはイメージと内容、共にぴったりです。「96時間(原題:Taken)」の場合も同じです。商業的に成功させるための題はその作品の表面を舐めるのに留まるべきなんです。

気を取り直して作品について

1950年代。精神病院に入れられ、5日後にロボトミーを受けることになったベイビードール(エミリー・ブラウニング)が、同じ精神病患者の仲間とともにファンタジーの世界へと飛び込み、人格破壊の危機を回避するための5つのアイテムを集める。 Wikipediaより
作品を見た後にこのあらすじを読んだ方は、こう思うでしょう「よくも簡単に言ってくれたな」と。

そうこの作品、以前の記事で取り上げた「未来世紀ブラジル」同様、終盤の展開で視聴者の脳みそをグチャグチャに掻き回してくる。さんざん考えた挙句にたどり着いた僕の答えは上で挙げたWikipediaのものとは異なる。まずは作品の流れを確認しよう。

流れの確認

1.一つの家庭があり母が死ぬ。母の遺言(娘2人にのみ財産を遺す)が原因で夫が娘の1人を殺害。罪をもう一人の娘(主人公)になすりつけるため秘密裏に精神病院でロボトミー手術(一切の感情を消す手術)を受けさせる(手術は5日後)

2.主人公はロボトミー手術という精神的負担を抑えるために防衛機制を発動。自分(エミリー)を5日後に大富豪に引き取られる娼婦(ベイビードール)として、精神病棟を娼婦館へと置き換えた妄想世界へと旅立つ。

3.妄想世界での彼女は人を惹きつけるダンスが可能であるという妄想特有の俺Tueeeeeを発揮し、その隙に脱出のための道具を盗む。またダンス中はWWⅡやファンタジーの世界への第二層目の妄想が展開される。↓
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4.娼婦館での妄想では自分を犠牲に一人の友人を逃がすことに成功。場面は切り替わり、あっけなくロボトミー手術が行われ終了。

反論

この結果を見ると誰もがWikipediaくんのあらすじ通りの作品で間違い無いと思うだろう。しかしこちらの主張にも根拠が無いわけでは無い。

1.第二層目にのみ出現するキーパーソンが第一層目の最後に助けた女の子を映画の最後にかばうシーンがある。

正直ゾッとするんじゃないだろうか。なぜなら彼ら2人は本来は主人公の妄想の中の存在なのだから。これこそ妄想と現実が反転する可能性を孕んだ瞬間だ。

2.主人公の妄想と現実(精神病棟)にて共通して登場するキャラクターが妄想側の世界に影響を受けていること。

妄想側では娼婦館のオーナーである男は精神病棟では医者のはずであった。彼は自分の下で働く娼婦達が客に弄ばれるのを嫌悪し彼女らの抵抗を求めたのだ。そう医者であるはずの現実世界でも。

娼婦達をかばった先生役は病棟側でも無意識に彼女に手を差し伸べている。ロボトミー手術推進という形で。

しかし正直辻褄の合う説明は難しい。妄想と現実、少なくともどちらがどちらであるときめつけられないだけだ。また頭がグチャグチャになる。

素敵だったシーン

第二層目の妄想バトルでは敵はいつも人間ではなかった。甲冑魔人、ゾンビナチス兵、ロボット。これらは主人公のリアルに対する一種の抵抗が伺える。しかし最後のバトルは友人を逃がすためのもの。武器はなく、妄想パワーもない正真正銘の人間を正面に据えたリアルそのものであった。主人公が現実を受け入れられるまでに強くなれた感動の瞬間だ。(だからこそこの場面が第1層目の妄想であったとは思いたくない)

盛大にネタバレしましたがアクションだけでも素晴らしい作品です。ぜひ