Re Another Life

アニメや音楽に始まり哲学など

中世世界における神的な道化

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中世ヨーロッパには宮廷道化師という支配層に雇われた職業、身分がありました。この道化というのは何を言っても許されるという特異な立場として認められており、王への批判さえも許容されていました。

 

一介の道化が王権神授説によって正当化された王を批判する、というのはとんでもないことで実質的に神への冒涜ではないか?という話になってもおかしくありません。しかし、そうはなりません。なぜなら道化もまた神より力を与えられたマジカルな存在である(と考えられた)からです。

 

なぜ道化が神なる存在に近いと言えるのか?例えば中世において、らい病(現在ハンセン病)は神の怒りによる病として、人間と神との関わりの中に理解されていました。また気の狂った人間は「神がかり」という名称で呼ばれ、ある意味で神に目をかけられた人物として無条件に周りの人間に養われて生きていたりします(カラマーゾフのリザヴェータとか)。

 

さらに日本でも鎌倉時代の非人(今は差別用語ですが)と呼ばれた人たちも、当時は差別的意味は薄く、やはりマジカルな力を持った人間とは異なる存在として畏敬の目を持って見られていました(『異形の王権』に詳しいです)。

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このように現代では狂気や穢れと理解されたネガティブな特性も中世世界においては神との関わりにおいて理解されます。道化もその一種であり、神に近い存在として特権的な地位を与えられていたのです。

 

中世はこのように今では考えられないような力、すなわち宗教や神の力が中心を占めている不可思議な時空です。哲学史だけを学んでいた自分には目からウロコで、非常に良い勉強になっています。参考文献などありましたらご教授願いたいです。

 

※ちなみに哲学史における中世とは「哲学は宗教の婢女」と言われるように、キリスト教の教義に合う哲学だけが認められるという暗黒時代であり、いい印象は全くありませんでした。