Re Another Life

アニメや音楽に始まり哲学など

入院と思索

全身麻酔と軽い手術を要する入院をつい先日終えて帰ってきました。全く重大な病気とかでもなく、さらに今まで大きなケガも病気もしたことがなかったので入院というのは人生で初めての体験でした。思うところが色々あった体験だったのでつらつら書いていこうと思います。

 放射線照射

隣のベッドで寝ているおじいちゃんが治療に放射線照射を行っているという話を聞きました。ちょうどハイデガーの技術論と関連して核力(原子力)について調べていたので、その圧倒的な身近さに驚きました。レントゲンとかならまだ分かるんですが、照射となると中々の量があるようで皮膚に影響が出ていました。放射線の照射の何が良いのかというと太陽の光や水、もしくは真空状態、温度の変化などとは異なる変容が照射対象に期待できるということです。なので農業だと品種改良のために作物に放射能を照射するという使い方があり、既に商品として売られています。

 

原子力に限った話ではないですが「〇〇の平和利用」という言葉には気を付けたいところです。技術の進歩というのは本来、人の価値観が通っていないもので、その進歩自体に善悪が存在するわけではありません。それでも人は「病気を治すため」とか「戦争を終結させるため」とかいった言い訳で技術の進歩を肯定します。しかし、病気の治療のために作られたとされる遺伝子改良技術はデザイナーベイビーに繋がり、戦争を終結するために作られた原子爆弾は次なる戦争に使われることを止められないのです。

 

この技術は本来中立的であり、人が噛むことによって善悪が判断されるという考え方を中立論、と呼ぶのなら技術それ自体が「方向性」をもつという自体説というのもあります。これはハイデガーが言っていることで「人間が技術を使うのではなく、技術が人間を使う」ということになります。まあ映画「マトリックス」を想像していただければ大体あってると思います。

 

とっ散らかりましたがここでこれらの知見を得た参考文献を紹介しておきます。

 

『死を超えるもの 3・11以後の哲学の可能性:森 一郎』

この本はハイデガーハンナ・アーレントによる技術論に沿ったラディカルな原子力批判を論じていて面白いです。両哲学者の思想を理解するのにも、刺激的な読書をするのにもおすすめです。

 

『核エネルギーの平和利用:村田 浩』

題名からも察せられる通り原子力万歳な本で、前に挙げた本とは180度方向が違っています。何しろ今では包括的核実験禁止条約に抵触されるとして禁止されている原子力の爆発力を利用した土木工事の可能性などを語っているのでかなり時代のギャップを感じます。ただ嘯いているわけではなく客観的で為になる原子力利用のデータがそろっているので参考にさせていただきました。知識だけでなく時代背景を知るのにもおすすめです。

 

『技術への問い:アンドリュー・フィーンバーグ』

これまでの技術論を概説しながらも、それらの市民の関与排除を問題点とし、新たな概念の定式化を企てる本。百科全書的なつくりになっているのでハイデガーの技術論を理解するにあたって参考にさせてもらった。まだ全部読んでいないので割愛。

 

映画鑑賞

次のトピックスです。病院の消灯は午後9時なわけですが若者の自分が眠れるはずもなくiPhoneにダウンロードしたPrime Videoの『Fight Club』を初めて見てしまいました。正直オチに関してはあまり響かなかったのですが、タイラーの説く思想があまりにハイデガーの「総かり立て体制」や「死への先駆」を思い起こさせるので感動してしまいました。言ってることがうまく重なって、それを行動で体現するわけですから説得力が凄いのです。

 

僕は映画を見るときに「どんなクズが出るんだろうか」というのを楽しみの一つとしているのですがタイラーやそれに影響される主人公のアウトローっぽさは最高峰の物でした。それに対して病院着を行儀よく来ている自分の卑小さが際立つのも映画の面白い効果ですね。

 

真夜中の病院散歩

あまりに眠れなくて深夜2時くらいに病院内を散歩しました。昼間あった多くの人の姿は見えず結局人に会わずに終わりました。電気が点いている階も点いていない階もありましたが、どの階からもうめき声やら笑い声やら、よくわからない声が聞こえてきて何かしらが潜んでいる感じが印象的でした。出るならここだろうという場所にも赴いたのですが超科学的な存在に会うことはありませんでした。

 

全身麻酔

完全に無神論者なのですが仏陀やキリストに会う、いわゆる臨死体験を期待していました。ですが普通に時間が消し飛ぶキングクリムゾン的な体験をしただけでした。目覚めた直後に朦朧とした意識の中「仏陀に会えなかった」と先生たちに言ったことを後悔しています。

 

以上人生で初めての入院、もう二度とごめんだと思うとともに、とても貴重な体験でした。病院のベッドで汗をかきまくって退院するころには背中がツルツルになっていました。