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Re Another Life

アニメや音楽に始まり哲学など

独裁主義は死なない 映画「The Wave」 A=B、B=CならばA=?

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高校教師ベンガーは冴えない中年男。周りの教師と比べ学がなく自分がやりたかった「無政府主義」もインテリ教師に取られてしまう。残り物の授業「独裁主義」を仕方なくやることになった。ベンガーは生徒たちに聞く

 

独裁制はもうないと思うか?」

 

生徒たちは当然といった顔で独裁制の絶滅を主張する。そうここはドイツの学校。全員がナチの実態を、危険性を、そして末路を知っている。独裁制の例を聞いても面を伏せる程には刷り込まれている。

 

独裁制には指導者が必要だ」「この実習ではだれがやる?」

 

「先生だろ」

 

「評決を取るぞ」「では俺という事でいいな?」「指導者には敬意をもて。今週は俺をベンガー様と呼べ」

 

「何様だよ」「みんなで決めたことだろ

 

5日間の実習が始まる

 

 あらすじというのは映画が丁寧に描いている諸々を名前の通り粗削りに説明してしまっているのでいざ視聴したときに変に意識してしまっていけない。起承転結の起を見せる方が個人的には良いと思う。

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「発言するときは席を立て」「このクラスの名前を作ろう、みんなで考えた。Waveだ」「落書きか…上手いな。君はWaveのマークを作ってくれ」「制服というのは団結に重要なものだ」「Waveの挨拶を作ろう」

 

「お前はオタクだがWaveだ。いつでも助けてやるよ。」「同じ目的に向かっていくことって素晴らしいことだったんだな。」

 

「ベンガー様!」

「おいおい、授業外ではやめないか。」

 

「なあ、きみ。なぜ制服を着ていないんだ?」ー「似合わないからよ」

 

「なあWaveは世界を動かす集団になるんだ。街中にWaveのマークを塗りたくってやろうぜ!」

「Waveに入らないやつは通さないぜ」「なぜWaveをやめるんだ?僕の彼女だろう?」「Waveの制服以外はすべて燃やしてしまおう」

彼らのグループは指導者という名の命令装置を設置したこと、それだけで恐ろしい化け物に変貌していった。自由を何よりの価値あるものとしてきた生徒たちは指導者の奇妙な命令に従い、粋がったヤンキーでさえも指定された制服を大事に着ている。

 

彼らは次第に自分たちを特殊な人間であると思い込む選民思想に染まり、それを外部に示そうとまでする。従わない人間には集団で制裁を加え数を増やしていく。

 

一方指導者となった教師も次第にその性質を変えていく。Waveを異常であるとする生徒には「なら授業をやめればいい」と冷たく言い放ち、自分の独裁を終わらせようとしない。最初はただのゲームだったのに。

 

 

この2つの立場は非常に興味深い。「支配される快感」と「支配する快感」である。要するに独裁制なんてものは人間の本能に眠る一つの社会形態なのだ。悪い要素ばかり取り上げたが、かりそめであっても利点があるからこそ人々はその動きに飲み込まれる。

 

さてもう一つ。なぜ、いとも簡単に独裁制が出来上がってしまうのかという疑問に対する答えには「自分たちは違う」と私たち人間はどうしても思ってしまうから、というものがある。

 

「A=B、B=CならばA=?」という問いに対して私たちは容易に答えることができるだろう。「A=C(AとCは同一)」である。しかし私たちの本能は知っている。「A=A」しかこの世には存在しないことを。完全に同一なものなど存在しないことを知っている。

 

それゆえに「私は人とは違う」と何のためらいもなく言う事ができるのだ。しかし我々はそれ以上に知っておくべきことがある。「大いなる力の前には塵も人も同じ」ということを。無知の知を知ることによって私たちはまた違った存在になれるのだ。

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教師ベンガーは最後の授業においてWaveの存続を発表し反逆者の生徒をあぶりだす。

 

「反逆者のこいつはどうなるべきだ?」

 

「……………」

 

「おい!こいつをどうするべきか言ってみろよ!!!」

 

「先生が命令を…」

 

「俺が殺せと言えば殺すのか?これが独裁主義だ!Waveはこれで終わりなんだ!」

 

自分たちがナチスと何ら変わらない独裁制を築きあげてしまったことに気付く生徒たち。しかし一人だけは違った。銃を振りかざし部屋を出ようとする生徒を威嚇する。

 

「Waveは僕の人生なんだ!!!終わるなんて認めない!」

 

「指導者を失えば独裁は終わりだ」

 

鳴り響く銃声。彼は自らの脳みそを飛び散らせた。

ここから見出すべきことというのは独裁制は絶対悪であって今までの過程も結果もすべてが悪に収束されていく、という事ではないと思う。これは単に独裁制に過度にシンクロする人間も一定数存在するということだ。

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Waveを扇動し死者を出した教師ベンガーはパトカーに乗せられた最後のシーンで、その表情で私たちに確かに訴えかける。

 「おい、見たか?」

                        今週のお題「映画の夏」